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シティゲーム

コーディネーター日誌:都市は巨大な遊園地(シー・ユシン)

2025.06.09

千葉国際芸術祭2025では、32組のアーティストがさまざまなアートプロジェクトを展開しています。

アーティストは千葉市に訪れて、何を感じ、どんな構想をしているのでしょう? ワークショップや展示企画になるより手前の「リサーチ」の段階から伴走しているコーディネーター視点のレポート(日誌)をお届けします。

コーディネーター日誌:都市は巨大な遊園地

  • アーティスト:シー・ユシンさん[中国]
  • 日誌の日付:2025年4月13日~4月18日

都市を歩き回ることは、シー・ユシンさんにとって一貫したリサーチの手法です。

Day1:
・ビックカメラ 千葉駅前店(おもちゃ・ゲーム売り場)
・タイトーステーション ビックカメラ千葉店
・千葉公園
・そごう千葉店
・千葉都市モノレール 千葉駅

Day2:
・稲毛海浜公園
・稲毛海岸駅
・イオン マリンピアショッピングセンター

Day3:(シー・ユシンさんのみ)
・千葉市内を散歩 (※地図・左)

Day4:(シー・ユシンさんのみ)
・千葉市内を散歩(※地図・中)

Day5:
・千葉市内を散歩(※地図・右)
・千葉市動物公園

中国と共通する姿

モノレールに乗ったとき、シー・ユシンさんはとても興奮していました。吊り下げ式車両のモノレールは彼女にとって初めての体験で、その非日常的な感覚に驚いていたようです。「駅の中にいるときはまだ地上にいる感覚なのに、次の瞬間にはもう空中に浮かんでいるみたい」と話してくれました。その言葉にふと外の景色を見直してみると、千葉市がまるで巨大な遊園地に変身したかのように感じられ、モノレールは空を駆ける超ロングジェットコースターのようでした。

公園では時々、おじいさんたちが将棋を指している姿を見かけます。シー・ユシンさんは「中国にも似たような風景がたくさんありますよ」と話してくれました。中国の公園には、象棋(シャンチー)の盤が刻まれた石のテーブルが設置されていて(※写真参照)、普段は皆それぞれに過ごしているのに、一つの卓で対局が始まると、自然と人々が三重にも四重にも囲んで見入ってしまうのだそうです。その瞬間、ソーシャルディスタンスなんてどこかへ消えてしまったかのよう。「遊び」という行為は、現代社会において密かで力強いコミュニケーション手段なのかもしれません。

遊びを通した「対話」

稲毛海浜公園でリサーチをしていたとき、シー・ユシンさんはとても楽しそうに、すべての遊具を一つひとつ試していました。「もちろん全部体験してみないとね!」と笑顔で話しながら、登り台、ブランコ、回転遊具などを順番に体験していく彼女は、まるで自分の「遊園地制覇計画」を遂行しているかのよう。そこには「リサーチ」の堅苦しさなど微塵もなく、身体を使って空間と対話し、遊びを通して都市と対話しているように見えました。

シー・ユシンさんは都市を「散歩」しているのでしょうか?

いや、彼女はきっと、都市という巨大な遊園地の中で、ただ自由に遊びまわっているのだと思います。


執筆:胡 听雨(千葉国際芸術祭2025 アートプロジェクトコーディネーター)

このレポート・コラムのプロジェクト

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ゲームは、他者とつながるための大切な手段であり、日常において欠かすことのできない存在だと考えている。人間のゲームへの欲求は根源的な本能に由来すると捉えており、それが人と人との間に関係性を築く橋渡しとなる。 これまでの実践のひとつに、中国の都市で行った「シティゲーム」プロジェクトがある。公共空間における人々と建物の新たな関係を創出し、歴史ある街区に一時的な「ゲームの世界」を立ち上げることを目指した。見知らぬ人と路上でチェスを行い、通りを即席のゲーム場に変え、二つのゴミ箱を使ったオリジナルゲームも実施するなど、街なかで即興的に展開してきた。 千葉国際芸術祭2025では、リサーチを通じて地域に入り込み、市民の日常のなかに潜む創造性を発見し、そこから着想したゲームのルールを設計することで、都市空間に新たな力を与えることを目指す。 「千葉シティゲームウィーク」と題された本企画では、1週間にわたり街の各所で小さなゲームを展開する予定である。地域の人々がプレイヤーとして参加し、遊びを通じて身近な空間や日常の風景に新たな意味を見出す機会となることを期待している。 【市民参加のかたち】ワークショップ参加/展示鑑賞
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