ゴロゴロの風景 2025_Chiba City
アーティスト
地村 洋平
「ゴロゴロの風景 2025_Chiba City」は、都市に日々蓄積されていく見えない記憶を可視化し、共有・保存することを目的としたアートプロジェクトである。都市とは常に変化し続ける場でありながら、その地に生きる人々や物質には、確かに時間の痕跡が刻まれている。本作は、そうした日常に埋もれた記憶や問いに目を向け、都市と個人の関係を再考する試みである。
本作の根底には、都市における「移ろう記憶」と「定着した記憶」が交差する構造への関心がある。観光や物流など、日々この地を訪れては去っていく人々の一時的な痕跡と、長くその場に住まい続ける人々の記憶とが、都市の風景を多層的に形づくっている。
舞台となる千葉駅周辺は、房総半島と東京圏を結ぶ結節点であり、多様な人々が行き交う場である。エッセンシャルワーカーをはじめとする多様な背景を持つ人々が日々この地を訪れるなかで、その無数の移動や存在の痕跡が都市の風景に折り重なっている。本プロジェクトは、このような都市の流動性と、そこに潜む個々の痕跡に焦点を当てている。
作家自身がガラス製のタイヤを転がしながら千葉駅周辺の都市空間を移動する行為が、プロジェクトの中核をなす。シャフトに取り付けられた小型カメラがガラス越しに風景を記録し、その映像には都市の景観が歪んで映り込む。使用するガラスは、千葉駅周辺の路面から市民の協力によって採取された砂埃を素材の一部として作成する。交通の要所としてのこの地に日々蓄積される「都市の微細な痕跡」を可視化する試みでもある。
展示会場には、ガラスタイヤの実物と記録された風景映像を並置する。物質としてのガラスに刻まれた摩耗の痕跡と、映像として捉えられた歪んだ風景が重なり合うことで、鑑賞者に都市を異なる層で感知する新たな感覚をもたらす。社会課題の直接的な解決を目指すものではなく、むしろ日常の中に潜む問いをすくい上げ、鑑賞者自身の気づきや対話を生み出すことを、本作の本質としている。
さらに、ローカルリサーチの一環として、市内の小学生の靴から採取した砂を用いたガラス製のタイヤも制作を検討している。このタイヤは会期中、鑑賞者が自由に街中で転がすことができ、地域の記憶や環境との新たな関わりを体感できる場となる。
【市民参加のかたち】材料提供/ワークショップ参加/展示鑑賞(体験あり)
スケジュール
・2025年6月〜7月 砂採取、ガラス制作
・2025年8月 撮影・編集
・2025年9月〜 展示・ワークショップ
・プロジェクトディレクター いわさわ たかし
・プロジェクトマネージャー 両見 英世
協力
・株式会社千葉ステーションビル
・JR千葉鉄道サービス株式会社
・千葉神社