Menu Close

変わりゆくちばを形にする

アーティスト
諏訪部 佐代子

このプロジェクトは、千葉市民を対象にしたワークショップを通して、市内で過ごす日常の中にある「変わりゆく(エフェメラル)なもの」を土で形に残し、焼き締め(野焼き)によって作品化し展示する取り組みである。参加者と街を歩きながら、風景や記憶に残したいものを粘土で拓本のように記録し、最終的にインスタレーションとして発表する。素材には地域の粘土を使用し、手を動かす体験から自然とのつながりを感じ、自分や他者、環境へのケアの意識を育てる。展示では、地域文化や記憶を未来に伝えるメッセージとし、過去と未来の視点から現在の暮らしを見つめ直す。市民同士の協働による作品制作を通じて、地域のつながりを生み、孤立感の緩和や文化的な誇りの醸成にもつなげることを目指す。展示場所は千葉市内の遊休空間を予定。

【市民参加のかたち】ワークショップ参加/作品制作/展示鑑賞

スケジュール

・2025年7月13日(日):ワークショップ開催
・2025年7月20日(日):ワークショップ開催
・2025年7月21日(月):ワークショップ開催

このプロジェクトの拠点

このプロジェクトのイベント・展示

このプロジェクトのレポート・コラム

千葉の「今」を手に入れて、未来へ届ける〜「いまあるちばの形を伝えてみよう」ワークショップレポート〜

変わりゆくちばを形にする
2025年7月13日(日)、千葉国際芸術祭2025の公募企画「ソーシャルダイブ」で採択された、千葉ゆかりのアーティスト・諏訪部佐代子さんによるワークショップ「いまあるちばの形を伝えてみよう」が開催しました。本企画は、諏訪部さんのアートプロジェクト「変わりゆくちばを形にする」の一環として行われたもので、都市の風景に潜む痕跡を掘り起こし、未来へと継承するアート実践です。 このワークショップでは、実際にまちを歩きながら、道ばたの模様や建物の表面、自然物のテクスチャーなどを粘土で写し取り、千葉というまちの「今」のかたちを記録していきます。参加者は時間や記憶の積層を身体で感じながら、都市と人との関係を手で確かめるような体験をします。今回のテーマは「城へ行く道」。千葉城を中心としたエリアをめぐりながら、昔と今が交差する地点をたどっていきました。 当日は、7月とは思えないほど涼やかな風が吹き、まち歩きにぴったりの天気でした。集合場所は、明治4年創業の老舗うなぎ店を改装したアートスペース「アーツうなぎ」。千葉国際芸術祭をきっかけに、地域に開かれた場として、市民やアーティストの創作や交流の拠点となることを目指しています。集まった参加者には、粘土や作業用道具、うなぎ屋さんで実際に使っていた重箱、そして諏訪部さんが特別にデザインしたトートバッグのセットが手渡されました。参加者はこのトートバッグを持ってまちへ繰り出します。 午前10時、諏訪部さんによるコースの解説がスタート。1927年に描かれた千葉の鳥瞰図(俯瞰でみた図)をみんなで眺めながら、現在とは異なる千葉の風景に思いを馳せました。 最初の目的地は、「お茶の水」と呼ばれる湧水跡。かつて地域の人々が水を汲みに集い、挨拶を交わしていた場所です。今では水こそ湧いていませんが、地面の凹凸や植生にかすかな名残が漂っています。参加者たちはそれぞれ粘土を手に取り、気になる場所の模様を写し取りました。わずか5分ほどの粘土タイムでしたが、土地の記憶に触れるような濃密な時間が流れていました。 続いて、亥鼻公園の入口から石段を登り、千葉市立郷土博物館(千葉城跡)を目指します。途中の亥鼻山では、諏訪部さんがかつての千葉の写真を手に、現在の眺望と重ね合わせながら解説。数十年前この場所からは、遠くに埋め立て前の水平線が見えたといいます。今では建物が立ち並び、日常的な都市の風景が広がっていますが、その変化を目の当たりにすることで千葉市港湾区域の「埋立地」という特性を改めて実感させられました。 人間は自然とぶつかり合い、また折り合いをつけながら土地を形作ってきました。私たちが立っているこの場所も、長い年月をかけて地形改変の果てに定着した風景の一つです。100年でこれほどの変化を遂げた都市は100年後にはどう見えるのでしょうか? その後、千葉大学の亥鼻キャンパス近くにある亥鼻台公園へ。ここもかつては千葉城の一部でしたが、現在は滑り台などの遊具がある静かな子ども向けの公園です。滑り台の脇には、外来種のタンポポが群生しており、ゲストアーティストの吉野さんを中心に、在来種との違いや植生変化について活発な意見交換が行われました。 続いて、旧保育所の跡地を通って千葉県立中央図書館へと向かう途中、黒い石垣にひび割れを埋めた跡を見つけた参加者がいました。コンクリートと色鮮やかな色石でささやかに補修された細い曲線は、人工的な都市の裂け目でありながら、どこか有機的な存在感を放っていました。その曲線は、過去に都市をつくった人々と、今を生きる私たちとの静かな対話のようにも感じられました。 最後は千葉県立中央図書館前の広場に少し立ち寄り、その後、かつて川が交わっていたという場所を通り抜けながらアーツうなぎへ戻ってきました。今では車が行き交う道路となっていますが、地形の微妙な起伏に水の記憶が宿っているようでした。 アーツうなぎに戻った後、参加者たちは粘土で写し取った痕跡を並べて披露しました。街路樹の葉脈や落ちた実など、自然の繊細な造形を写し取ったり、風化した建物の壁面を丁寧に記録したり。参加者それぞれが、街並みの模様だけでなく足元にあったものを写し取って持ち帰ることで、自分なりの「ちばのかたち」を紡いでいました。 なかでも特に印象的だったのは、参加者の一人が集めていた縦と横2本ずつの線が重なり合った模様。文字の「井」として、音楽記号の「♯」として、そして人工と自然の交錯点としても読み取れるこの模様に魅了された彼女は、3つの似た型を写し取った粘土を組み合わせ、Y字路模様の粘土と並べて展示しました。千葉という土地がもともと「水」と深く関わっている文脈とも響き合い、コンセプトが非常に印象的でした。 最後には、参加者それぞれが、どんな思いで痕跡を写し取り、どんな未来を想像してこの道を歩いたのか、作品とともに語り合う時間が設けられました。多様な参加者が集ったことで、多彩な視点と想像が交差し、「対話」の可能性についても感じられる場となりました。 このワークショップは7月20日、21日にも開催予定です。日常の風景に目を凝らし、耳を澄まし、手で触れ、都市の記憶を未来に届ける体験に、ぜひ多く方に参加してもらえたらと思います。 執筆:黄志逍(千葉国際芸術祭2025アートプロジェクトコーディネーター )
変わりゆくちばを形にする