おともといっしょ
アーティスト
西原 珉
本プロジェクトは、千葉市緑区にある千葉県こども病院を舞台に、アートを通じて癒しと交流の機会を創出することを目的としている。長期入院を余儀なくされている子どもたちはもちろん、不安を抱えながら付き添うご家族や、日々緊張感の中で働く医師・看護師など、病院という空間で日常を過ごすすべての人々に向けて、心の安らぎと自己表現の場を届けることを目指す。
2024年度はそのプレ企画として、まず病院スタッフを対象にワークショップを実施。編み物や縫い物といったクリエイティブな体験と対話を通して、スタッフの現状や思いに耳を傾け、今後の方向性を探るためのイントロダクションとして位置付けた。
2025年度は、キュレーターおよび協力アーティストを迎え、病院の特性に寄り添いながら、現場の声を反映したワークショップや展示を展開していく予定。芸術祭の集中発表・展示期間(2025年9月〜11月)にとらわれず、病院や患者の状況に応じて柔軟に実施する。
中心となる活動は、医療現場で使われてきた「キワニスドール」をベースに制作されたドールを活用したアートワーク。子どもたちは、用意されたドールに布を貼ったり色を塗ったりすることで、世界にひとつだけの“分身”を創作する。さらに、そのドールを主人公に見立てて「自宅に帰る」「院内を探検する」「おつかいにいってもらう」といったシーンを写真に収め、子どもたちと共有することで、病室にいながらにして他者の体験を“追体験”できるようなプログラムを構想している。
針などの使用は避け、「貼る」「塗る」といった安全性に配慮した表現方法を中心に計画。また、滅菌環境下での制限や患者ごとの体調にも細やかに対応するため、病院側と綿密に連携しながら、実施の可否や時期を慎重に検討していく。このプロジェクトは、アートを通じて人と人との関係性をつなぎ育み、孤立や不安にそっと寄り添う存在として捉え直す試みでもある。
【ゲストアーティスト】奥野 智萌
美術作家。1998年京都生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻博士後期課程在籍。
自身の経験をうさぎ、海亀、蟹、人魚といった異質な身体を持つ生物を通して再解釈したり、連想ゲームのように辿り着いたモチーフを導入することで、元の文脈からずらし、異なる因果の可能性を探求する作品制作を行う。
近年の主な展示に、個展「記憶からあとずさり」(GALLERY b. TOKYO、2025)、TOKAS-Emerging 2024|奥野智萌個展「新身訓練: I want to see my back.」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、2024)、東京ビエンナーレ2025プレアクション「旅のお供」(CREATIVE HUB UENO “es”・Slit Park YURAKUCHO、2024)、「漫画圏」(アート/空家 二人、2024)など。
主な受賞に、「アートアワードトーキョー2024」建畠晢賞、平成藝術賞。
・プロジェクトディレクター 彦根 延代
・プロジェクトマネージャー 佐々木 美佐子
・プロジェクトコーディネーター 黄 志逍