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街に巡る優しさ

コーディネーター日誌:歩いて測る風景(チャン・ジエ)

2025.06.09

千葉国際芸術祭2025では、32組のアーティストがさまざまなアートプロジェクトを展開しています。

アーティストは千葉市に訪れて、何を感じ、どんな構想をしているのでしょう? ワークショップや展示企画になるより手前の「リサーチ」の段階から伴走しているコーディネーター視点のレポート(日誌)をお届けします。

コーディネーター日誌:歩いて測る風景

  • アーティスト:チャン・ジエさん(リビルド・ラボ)[中国]
  • 日誌の日付:2025年4月7日~4月11日

ここ数日間、私はチャン・ジエさんと共に千葉市内を巡り、リサーチ活動を行いました。都市空間と自然の交差点を歩きながら、彼女の目に映る千葉の風景を少しずつ掘り起こしていくような時間でした。

Day1:
・千葉都市モノレール 千葉駅
・そごう千葉店
・千葉動物公園

Day2:
・千葉公園
・千葉神社
・千葉中央公園

Day3:
・Qiball
・亥鼻公園
・稲毛海浜公園
・稲毛海岸駅
・イオン マリンピアショッピングセンター
・イオンモール幕張新都心
・千葉市役所

Day4:(チャン・ジエさんのみ)
・花見川公園
・花見川区役所
・美浜区役所
・葭川公園

「遠くのものもよく見える」

チャン・ジエさんは、公園がとても好きです。いつも折りたたみピクニックマットを持ち歩いていて、どこでも気軽に腰を下ろし、自然を楽しみながら周囲の観察を始めます。「視力がいいから、遠くのものもよく見えるんです」と彼女は笑いながら言っていました。千葉公園では、遠くの体育館の中に掲げられた「ち」の旗をいち早く見つけて、とても興奮していました。「ああ、アートフェスティバルの気配が街にじわじわと広がってきたなぁ」と彼女は嬉しそうに話していました。

いいデザインのベンチ

建築設計のバックグラウンドを持っているからか、チャン・ジエさんは公共空間にある様々な設備に敏感に反応します。たとえば、千葉駅前で見つけたこのベンチ(※写真参照)。彼女はこの丸みを帯びたデザインがとても気に入ったようで、「こういう形は、人を自然に『座らせる』ことを促してくれる。固い長椅子よりずっと温かみを感じますね。この街そのものが、親しみやすい存在に見えてくる」と語ってくれました。

私たちがそのベンチを眺めていたとき、一人の女性が座りに来て、最初は盛り上がった部分に腰を下ろし、しばらくしてから自然と中央の凹んだ部分へと身体をずらしていきました。それを見ながらZhang Jieさんは「ね、いいデザインってこういうこと。何も書いてなくても、人は自分の身体を通して『わかってしまう』んです」と微笑みました。

まるで「建築家の探偵」

彼女はいつも巻き尺を持ち歩いていて、まるで「建築家の探偵」のように、訪れた場所を必ず「計測」したがります。場所が広すぎるときは、自分の足で距離を測るのです。「いち、に、さん……」と数えながら真剣に歩幅を数える彼女の姿を横で見ていると、まるでこの都市が彼女の足の裏で読み解かれているような、不思議な感覚に包まれました。彼女は目で景色を見るのではなく、全身で空間を「読む」人なのだと思いました。

「中国でプロジェクトの計画をしていたときは、ずっとGoogle Mapで千葉の都市風景を研究していました。だから実際には来たことがなかったのに、千葉のことをとてもよく知っているような気がしていたんです。でも、こうして実際にこの土地に立って、想像していた風景を目の前に見ることができて…本当に不思議な気持ちになりますね」とチャン・ジエさんは語ってくれました。


執筆:胡 听雨(千葉国際芸術祭2025 アートプロジェクトコーディネーター)

このレポート・コラムのプロジェクト

街に巡る優しさ

その他のエリア
千葉市内の公共空間を巡回する仮設の黒板を使い、市民との対話や関わりを生み出す参加型のインスタレーションを展開する。人々が自身の「うまくいかなかった出来事」を共有し、それを他者への励ましの言葉に変えることで、困難な状況にある人々に前向きなエネルギーを届けることを目指している。 直径5メートルの環状黒板は、手を取り合い肩を並べて立つ姿から着想を得た曲線的な形状をしており、サポートと団結の象徴でもある。展示期間中、市民はカラフルなチョークを使って黒板にメッセージや絵を描き、互いにあたたかい励ましの言葉を交わすことができる。 本プロジェクトは、現代の情報過多の時代において深刻化する社会的圧力やメンタルヘルスの問題に応答するものである。特にパンデミック以降、ソーシャルメディア上では他者の「輝かしい瞬間」が強調され、それとの比較が人々の不安感を引き起こす傾向が強まっている。そうした状況のなかで、本プロジェクトは公共空間において、あたたかく軽やかな方法で「大丈夫、あなたはすでに十分頑張っている。そのままでいこう」といったメッセージを、困難や批判に直面している人々に届けていく。 千葉国際芸術祭2025の「ソーシャルダイブ」に呼応し、本プロジェクトは市民とアートとの距離を縮めることを意図している。環状黒板は市民の創作を促し、その参加によって初めて完成する作品である。 【市民参加のかたち】制作参加/展示鑑賞
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