ちくわ部
「参加」とは? 「関係」とは? 国立アートリサーチセンター・稲庭彩和子さん、千葉市美術館・磯野愛さんと考えてみた(ちくわ部#03レポート)
2025.12.28
2025年11月24日、「ちくわ部」プロジェクトによるイベント「ちばげい対話の時間 #03」を開催しました。
ゲストは、国立アートリサーチセンター主任研究員・稲庭彩和子さんと千葉市美術館広報担当・磯野愛さん。市民参加型アートプロジェクトに中間支援や運営の立場から関わるお二人をお迎え、来場者とともに〈「参加」ってなんだろう? よりよい「関係」づくりには何が必要?〉というテーマで最終回を実施しました。
当日の様子を、アートライター・白坂由里さんにレポートしていただきます。

「参加」ってなんだろう? よりよい「関係」づくりには何が必要?
生活圏で行われている芸術祭を“口実”に、悩みやモヤモヤも含めて語り合ってきた「ちくわ部」。
第3回のテーマは「市民参加型アートプロジェクト」の祭典として、37のプロジェクトを展開してきた千葉国際芸術祭2025(以下、「ちばげい」)において特徴的な「参加」と「関係」。
ちばげいのプレ会期から実施してきた西尾美也さんのプロジェクト「まちばのまちばり」もその一つで、ワークショップを重ね、まちから集めた服を素材に市民が参加し、ユニークな服を作る環境をつくってきました。この日はちばげいの最終日でしたが、会場では作品譲渡会が行われ、ゲストの二人とも一点ものの洋服を身につけて登壇しました。


どうしたら「美術館」のハードルを下げられるだろう?
まずアートの場に足を運んでもらう活動について千葉市美術館の広報担当・磯野愛さんにお話をお聞きします。
今年開館 30周年を迎えた千葉市美術館は1995年11月3日に開館。「近世から近代の日本の絵画・版画」「1945年以降の現代美術」「千葉市を中心とした房総ゆかりの作家・作品」の三つの柱でコレクションを形成し、コレクション展や企画展を開催してきました。現在は「千葉」をテーマに、明治から千葉市美術館が開館する現代までのアートシーンをたどる展覧会「千葉美術散歩」を開催しています(2026年1月8日まで)。
磯野さんは「今日お集まりの皆さんは情報を得て自分の好きな展覧会や美術館に行けるプロだと思います。でも世の中全体でみると、美術館に行ったことのない人が多数派なんですよね。美術ファン以外の人たちは美術館にどういうイメージを持っているんだろう、どうやってリーチすればいいのだろう」と、日々考えていることを話し始めました。「難しそう、ちょっと料金高いよねというハードルがあり、展覧会を見ないと美術館に入れないと思っている人も多いと思います」。

「参加」には「知っている」と「利用しよう」が必要
しかし、2020年7月のリニューアルで、4階に「つくりかけラボ(以下、つくラボ)」と図書室「びじゅつライブラリー(以下、びブラリ)」、5階にワークショップルーム「みんなでつくるスタジオ」という無料スペースができました。つくラボでは、「五感で楽しむ」「素材に触れる」「コミュニケーションがはじまる」の3つをテーマに、アーティストが滞在制作し、来場者がワークショップなどに参加してつくったものがどんどん反映されていきます。
「通常の展覧会は開幕時に完成されている状態がほとんどですが、つくラボではゴールを設定せず、いつ行っても何かがちょっと変化している。アーティストからの問いかけに来場者が応えたり、来場者同士がその場で一緒につくったり。その痕跡を見ることで、他の人の存在や考えを知ることができる。これって千葉国際芸術祭のコンセプトと近いのではないでしょうか」。

また、旧銀行建築を活かした1階のさや堂ホールでは、地域の人に美術館の存在を知ってもらうため、季節ごとにほぼ無料のイベントがあります。アートクラフト市や陶芸市、コンサート、お正月には獅子舞。今年の夏休みには漫画家・芸術家の西島大介さんが制作した美術館オリジナルゲーム「さいばぁぱんく:千葉市美術館」と併せて、館内のQRコードを探して電子スタンプを集めるNFTデジタルスタンプラリーが行われました。

あるアンケートでは、展覧会目的では意外と県外からが多く、イベント目的では市内・県内からが圧倒的に多いという結果が出たそう。「展覧会には県外からの方、イベントは地域の方が来てくださっている印象があります」と磯野さん。いずれにしても、まず美術館や展覧会・イベントの存在を知っていて、なおかつそれを利用しようという意思が必要。この二つが合わさらないと参加には至りません。
「参加に至るには素通りしない力、自分ごとにする考えがあるかどうか、なのかもしれないと思います。あの展覧会、あのイベントは自分のやっていることに近いし、考える糧になりそうとか。あるいは何かに踏み込むきっかけになるとか」。

美術館がサードプレイスになる決め手は「安心感」
2020年のリニューアル以降、千葉市美術館がサードプレイスになる可能性も見えてきました。「展覧会場以外に、びブラリやつくラボのように主体性を持って参加できるフリースペースをつくることで、自分の家、自分のスペースから地続きに考えてもらうきっかけになるんじゃないか。では、美術館は家のように安心できる場所になっているかなと。子ども用トイレ、多目的トイレはあるか。授乳室、託児室の機能があるか。多言語化などアクセシビリティは充分か。美術館スタッフに親しみを持てるかなど、基礎から考えていかないとサードプレイスとして信頼されないんじゃないかと思っています」。
今日のテーマの「参加する」と「関係」については「時間がかかること」とし、「一回参加しただけでも関係性は生まれますが、関係づくりとなれば、継続して一緒にやっていくことだと思う。美術館がずっと同じ場所にあることも一つの継続性で、一回限りのイベントでも定期的に繰り返すことで継続的に参加してもらうことができる。その関係づくりに必要なのが広報で、地域の人と来場者と美術館をつなげるコミュニケーションが仕事なんですね」。

多くの人がSNSで情報を得る昨今、一回でも来てほしいけれど、バズは本当に必要なのかと考えてしまうと問いかけます。「長期的・継続的に考えると、教育普及や美術館を支える人たちを育てることが美術館のあり方なのではないか。ワークショップや市内の学校と連携した鑑賞教育でも、幼少期に体験していれば大人になってから思い出してまた行くことにつながるかもしれないですし、そのような種まきも大切にしたいです」。
「ちばしびオープンミュージアム」もその一つ。美術関係の仕事ってどんなことをするのか、現場の人に声を聞く機会もなかなかない。多忙な高校生にも自分ごとと思ってもらえそうな「進路」に関係ある、美術にまつわる仕事を紹介するイベントを行っています。また、夏休みには子どもたちが、勉強やちょっとしたワークショップができる朝活イベントも行っているそう。
展覧会だけじゃない美術館の使い方をいろいろと教えてもらい、松戸市民である筆者は、日頃から「ちょっと美術館に寄れる」千葉市民を羨ましく思いました。

アートや文化は、健康やウェルビーイングと関係している
続いて稲庭彩和子さんのお話をお聞きします。稲庭さんは神奈川県立近代美術館と東京都美術館で学芸員として活動し、現在は2023年に新設された国立アートリサーチセンターで主任研究員をしています。
国立アートリサーチセンターは、東京や大阪、京都、金沢など7か所にある国立美術館の、法人本部内にあり、国立美術館各館を中心に、国内外の美術館や研究機関をはじめ、社会のさまざまな人々をつなぎ「アートをつなげる、深める、拡げる」をミッションに活動をしています。稲庭さんが所属するラーニングのグループは、美術館の作品やコンテンツを「学びのリソース」として捉え、教員と学芸員が学び合う研修や教材の開発、またアートに関わる「健康とウェルビーイング」「アクセシビリティ」にも取り組んでいます。

「国立アートリサーチセンターの『アートをつなげる、深める、拡げる』というミッションも“参加”と“関係”に関わっています。例えば、私の担当している事業でいえば、文化活動やアート体験への参加度とその人の健康や幸福度とは相関性があるという研究が、この約10年で非常に注目されてきています。2017年にはイギリスの超党派の議員連が調査した200ページの『クリエイティブ・ヘルス 健康とウェルビーイングに寄与する芸術活動』という調査レポートが出て、アートリサーチセンターでその短い概要版を翻訳し、公開しました。社会に参加できている、アートや文化活動にアクセスできる人の方が幸福感を得られる可能性が高い、健康で寿命が長いということがわかってきています」。

アートを扱う場所にとって、“参加”や“関係”が今最もホットなテーマ
アートや文化が人々の健康を守るためにも必要ならば、誰もがそこに居られる、参加できるアクセシビリティをつくらなければいけないのではないか。議論の広がりとともに2022年には、ICOM(博物館に関する世界最大の国際的な非政府組織)でミュージアムの定義が新しくなりました。併せて同じ年に日本の博物館法も変わっています。
”ミュージアムは有形及び無形の遺産を研究、収集、保存、解釈、展示する、社会のための非営利の常設機関である。博物館は一般に公開され、誰もが利用でき、包摂的であって、多様性と持続可能性を育む。倫理的かつ専門性を持ってコミュニケーションを図り、コミュニティの参加とともに博物館は活動し、教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な経験を提供する”
(出典:ICOM日本委員会による日本語確定訳文)
20世紀型のミュージアムはこのテキストの頭にある「収集、保存、解釈、展示する機関」でしたが、21世紀型のミュージアムには、さまざまな経験、つまり参加を提供する場所という定義が加わったのです。

稲庭さんは、世界の人口推移表を見せながら「ミュージアムは20 世紀の大きな人口増の中で開発されつづけてきたシステムなんですね。たくさん増えた人間の中で、文化やアートを通じて互いの存在を共有し、つながりをつくる場所として、ミュージアムが活きている」とし、「ミュージアムやアートを扱う場所にとって、“参加”や“関係”が今最もホットなテーマ」だと語りました。
「例えば、高齢者、小さな子どもや、障害のある方がミュージアムに行きにくく、文化的活動に参加しにくい状況があるならば、合理的な配慮がどのように必要なのかミュージアム側が学べるハンドブックをつくる。イギリスではすでに公的医療制度の中で、体調が悪ければ薬だけでなく、代わりに社会への参加して楽しむ機会をつくるSocial Prescribing (社会的処方)が処方され、ミュージアムがその参加の場のひとつになっていますが、日本ではどのようにあり得るのか。国立アートリサーチセンターでは、東京藝術大学や全国の自治体などと連携しながら『文化的処方』の活動を広げています」。
「参加」とは、自分の中で何かが起きてしまった状態
ところで稲庭さんは東京都美術館時代、アート・コミュニケータと共にアートを介してコミュニティを育むソーシャルデザインプロジェクト「とびらプロジェクト」を担当していました。
従来の美術館ボランティアとは異なり、美術館と市民がフラットな状態で人と作品、人と人、人と場所をつなぐ活動を育むプロジェクトです。「毎年約40人のアート・コミュニケータが参加し、3年の任期で120名の方が美術館で活動していました。例えば聴覚障害者の方と作品を見るにはどんなことが必要か、児童養護施設や経済的困難、海外にルーツを持つ、不登校など美術館に来ることが困難な子どもたちの参加をどうつくるか、いろいろな外部団体と試行錯誤し、この美術館の存在に気づいてもらい、その人たちにとって一つの選択肢になるということを知っていただくような活動をしてきました」。

美術館の参加型のプログラムのほとんどの活動に当てはまる三原則は「モノをじっくり観察する」「発見や気づきを誰かとわかち合う」「オープンエンドな問い(答えが一つでない問い)」。また、参加や関係性をつくるポイントとして、「身体的・心理的に安全でウェルビーイングな場」「知識を持つ者から持たない者への伝播〈欠如モデル〉ではなく、双方向対話を通じて知の交換や共創を目指す〈文脈モデル〉へ」「当事者性の重要性(参加者が自分で手綱を握っているという状態の感覚)」が挙げられました。
「参加」とは自分の外側に向けて「何かをすること」というより、「自分の中で何かが起きてしまった状態のこと」ではないかと稲庭さんは言います。たとえば、作品を見ながら何かを思い出したり、今日は来て良かったと思ったり、誰かに作品のことを話したくなったり。稲庭さんにとって「そんな風に誰かが作品の前で没入していて、何かがきっと起きているんだろうなと思う状態を背後から見るのが幸せな時間」なのだそう。

アートは、衝突を回避しながら「違い」を持ち寄れる装置になる
さらにプレゼンテーションの最後では、「バウンダリーオブジェクト」という考え方を共有し、「アートは、違う人同士でも一緒にいられることを可能にするメディアとして注目されている」と語りました。「人と人が境界を越えて交わることを促すものが作品で、異なる背景・立場・経験を持つ人々が、それぞれの意味のまま関われる。同じ作品を見て見え方・感じ方・解釈はそれぞれ違うけれど、共有している時間と対象は確かに同じ。この“同じ/違う”が両立する状態は他の社会状況では生まれにくいけれど、衝突を回避しながら違いを持ち寄れる装置となるのがアートなんじゃないかということですね」。

プロジェクトを行う、参加する、参加できない、それぞれの視点を包括する関係づくり
最後に、4、5人でグループをつくり、思ったことなどを自由に話し合い、どんな話が出たかを全員でシェアしました。Aグループは「“参加”と“関係”が駆け算として結びつくことで、新しい出会いやより良いものが生まれたり、セーフティネットになったりするのではないか。参加の選択肢を増やすことも重要」と提案。Bグループでは、デンマークの杖の話が出たり、留学生の方や、話すのが苦手な方がみんなとどんなふうに話し、コミュニケーションを取っていくのがいいんだろうといったことを話したり、ゆっくりと聞き合う時間となっていました。

Cグループは「イベントに出かけてもアウェイな気分でオドオドしちゃうことも多い。参加する空間を用意しても、その人が参加する気持ちにならないとうまく働かない。自分がプロジェクトを行うことがあったら、そういう人もいることを忘れないようにしたい」と発表し、Dグループも「芸術を学んでいるので、プロジェクトをやる側と参加する側の視点、さらに参加できない側の視点を持ち、いろんな人を包摂できるような仕組みを、参加を迎える側が実現できればより良い関係づくりにつながるかなと思う」と重ねて話しました。

また、Eグループは 「こういう場に来て、身の回りにいながら見ていなかった人々のことを知ることも必要なんじゃないか。最近外国人の方が日本をたくさん訪れ、住んでもいる中で、例えばうなずく行為が必ずしもイエスではないとか、知っているだけで壊れない関係づくりもあるのではないか」と問いかけました。

それらの発表を聞いて磯野さんは「美術館もいろいろな人たちのきっかけになる場所にするにはどうすればいいのか考え続けていきたい」、稲庭さんも「すべて参加型の芸術祭ということが新しいし、このテーマをみんなで考え続けられる場があると、3年後の次回につながるのではないか」と感想を述べました。
最後にちばげい広報コミュニケーションディレクターで当日の進行を務めていた中田さんも「ここにはいない人のことを想像するためにここに集まるということをこれからもやりたい」と、みんなで3年後の芸術祭がいい形になるように願って閉会しました。

誰もが参加しやすいアクセシビリティへの取り組みはもちろん、「アートに関係ある場所なら安心して参加できる」と思えるような状態をつくることが、少しの違いだけでその場に居づらくなるような今の社会でますます重要だと実感しました。
実際に勇気を出して謎のちくわ部に来てみた方が数名いて、嬉しいと同時にちくわ部も続くといいなと勝手ながら思います。おでんの主役ではないちくわぶもいつもそこにあってほしい美味しさがあるように。

執筆:白坂由里
撮影:ただ(ゆかい)