まちばのまちばり
まちばのまちばり 第11回ワークショップ「カモフラージュの人」開催レポート
2025.12.04
2025年9月27日(土)、西尾美也によるアートプロジェクト「まちばのまちばり」では第11回目のワークショップを行いました。
今回のテーマは「カモフラージュの人」。
まちの風景に擬態する服をつくり、それを着てまちの中に潜む、というのが今回のミッションです。
千葉国際芸術祭2025の本会期が始まってから初めて行われた今回のワークショップには、子どもから大人まで10名の方が集まってくれました。
これまでの会場は「西千葉工作室」でしたが、今回からまちばのまちばりの展示会場である「まちまちいちば」へと変わります。
JRの高架下に突如出現した屋外アトリエのような空間に、思わず胸が高鳴りました。

まずはグループに分かれて街歩き。各々、潜んでみたい場所を探して写真を撮ります。
会場に隣接する公園や住宅街を歩きながら、「ここだ!」と思う場所を見つけてはパシャリ。
花の咲いた植え込み、公園事務所の外壁、歩道の点字ブロック、エアコンの室外機…街の何気ない風景が、何か特別なもののように感じます。
その場所を選んだ理由も、
ここならさりげなく潜めそうだから
色遣いが気に入ったから
個人的にとても意味のある場所だから
ピンと来たから
と、人によって全く異なるのも面白いですね。


撮影を終えて会場に戻ったら、次は大量の古着の中からその場所に擬態できそうな色や柄の服を探します。
写真をよく観察しながら、その場所に擬態するアイデアを捻り出すという作業は、普段の生活ではおそらくほぼ経験することはないでしょう。
奥行きのある場所に潜む場合は、空間把握能力も必要になります。
手前にあるものは大きく、遠くにあるものは小さく、という、いわゆる「遠近法」を駆使してデザインを考えていきます。
いつも通り、デザインが固まった人から順次西尾さんにプレゼンします。
「今回はあまりアドバイスすることはないかな…?」と、西尾さん。
予想通り、みなさんしっかりとその場所にぴったりの古着を見つけて、ここにこんな風にパッチワークをして、とか、こんな風に繋げて、といった具合で面白いアイデアを次々と披露してくれました。
いつもは午後スタートですが、街歩きが組み込まれているためこの日は11時スタートでした。
そのため途中でお昼休憩を挟むのですが、午後の陽が差すアトリエで、大人も子どもも入り交じって、談笑しながらランチを囲む姿に思わず頬が緩みます。
年齢も性別も国籍も関係なく、お互いのアイデアや作品を自然にリスペクトできる関係が生まれるのも、まちばのまちばりならではの光景なのかもしれません。
さあ、午後からはいよいよ服づくり開始です。
これまでのワークショップでは、テーマを噛み砕いて自分なりの解釈を見出したり、意味づけをしたり、という観念的なアプローチが主流でしたが、今回はその流れからは少し距離を置き、「擬態する」という現実的な目標に向かって手を動かす方が多く、いつもよりも考えやすい、つくりやすい、という声も多く聞かれました。
まちばのまちばりワークショップでは、毎回さまざまなアプローチで服づくりを行っています。
何度か参加するうちに、自分にはどんなつくり方が向いていて、どんな考え方が好き(もしくは嫌い)なのか、ということが見えてきます。
そこから自分とは一体どんな人間なのかという「自己理解」へと繋がり、さらには新しい手法にチャレンジすることでその殻を破っていく…まさにアートの持つ素晴らしい力ですね。


完成後は、その服を着て再び自分が選んだ場所へ行き、実際に潜んだ写真を撮影します。
潜んだ瞬間、「よっしゃ!」と快哉を叫んだり、無の境地に至ったり、そのものになりきって思わず同情までしてしまったり。
また、潜んでみたことによって、普段なら通り過ぎてしまいそうな何でもない場所が、急に愛おしく、自分だけの場所になったと語ってくれた方や、自分とは違う人間になれた気がした、という方も。擬態する服を着て潜むという体験は、自分自身が本当にその場所やものに同化する気分を味わうことでもあったのですね。




今回とくに印象的だった感想を紹介します。
外国出身のその方は、かつて自分が足繁く通っていたイベントが行われていた場所に潜むことを決めました。
そこは、出店者や常連さんたちとの交友関係が生まれた思い出深い場所だったそうです。
ただ、その方はそこに完全に潜むのではなく、あえて少し目立つデザインで服をつくりました。
日本に来て以来、自分が完全に周りに「潜んだ」経験は一度もなく、どうしても目立つ存在であることは認識している、だけど、目立つことは決して悪いことではないという意味を込めたかったとのこと。
それゆえに、完全に潜むよりも街の一部になること、街の趣に合うものになってみようと考えたそうです。
服づくりでここまで自分の経験や思いを表現できることに、心が揺さぶられました。


最後に西尾さんは、まちばのまちばりでつくられた服を身につけた人々が、西千葉の街に点在している風景を実感できたと仰っていました。
服が、その街の風景を変えていく。
そんな街はきっと素敵だろうなと思わずにはいられません。
執筆:上原理恵(千葉国際芸術祭2025アートプロジェクトコーディネーター )